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角川文庫
創刊70周年
スペシャルインタビュー
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黒川博行
1949年愛媛県生まれ。83年『二度のお別れ』がサントリーミステリー大賞佳作。86年『キャッツアイころがった』でサントリーミステリー大賞、96年『カウント・プラン』で日本推理作家協会賞を受賞。
逸木裕
1980年東京都生まれ。2016年『虹を待つ彼女』で横溝正史ミステリ大賞を受賞し、デビュー。他の著書に『少女は夜を綴らない』『星空の16進数』がある。
黒川博行×逸木裕 特別対談
構成:西上心太、撮影:ホンゴユウジ
黒川 第36回横溝正史ミステリ大賞の選考会では三人が推していて、すんなりと受賞が決まりました。着想がよく、会話も語り口も自然でした。なによりすぐに次作を書けるだろうと感じました。後半になって、主人公がすごい危機に直面します。どういう風にその状況から脱出するのか、自分なりに考えたけどわからんかった。あんまり応募原稿読んでハラハラドキドキすることないから、うまいなあと思いました。
逸木 ありがとうございます。この作品は四作目の投稿でした。二年半の間に四作書いたのですが、一作目が一次予選も通らなかったので、ネットで配信されている鈴木輝一郎さんの小説講座を受講しました。たたき込まれたのは締切を守ることと、資料を読めということの二点で、これはプロになってからも役に立っています。
黒川 耳が痛いわ。締切にあんまり間におうたことないので。
逸木 黒川さんのデビューも新人賞受賞がきっかけですね。
黒川 サントリーミステリー大賞で二回佳作になって三度目の『キャッツアイころがった』でようやく受賞しました。当時は高校の美術教師でしたが、受賞後一作目の『海の稜線』を出した時点で辞めました。いま思うたらようあんなアホなことをしたと。当時年収が五百万円以上あったのに、いきなり二百万円切って、すごい後悔した。
逸木 何かのインタビューで、専業になったプレッシャーで書けなくなったようなことを仰っていましたが。
黒川 いやいやプレッシャーやなくて、単に怠けて遊んでばかりいました。八十年代後半のバブル真っ最中で世の中浮かれてたので、働かんでも金はある程度入ってくるやろと。出版社も体力があったからいろんな社からいろんなオファーがあった。うちで書き下ろしをしてくれたら取材料をまず百万円渡しますという話も。
逸木 隔世の感があります。いまは編集者から真っ先に仕事は辞めるなと言われます。
黒川 辞めたらあかん。すごい後悔するから。
逸木 フリーランスのプログラマーなんですが、週に三日お客さんの会社に通って仕事をしています。残りの日を執筆にあてています。
黒川 偉い。俺とえらい違いや。半年以上遊んでた年もあります。なにしてたかというと、とにかく寝てましたね。教師を辞めたけど、学校に行ってたら仕事をしている時間は遊んでた。寝てるか将棋を指すか麻雀をするか。あとビデオで映画をよう見ましたが、小説の参考にはまったくなってません。とにかく出版界も好景気で、ぽっと出の新人でも初版一万部くらい刷ってくれたし、一晩で銀座のクラブやバーを何軒も案内してくれたり。当時の編集者でそういうことしてた人たちはもう定年ですし、亡くなった人もいます。
逸木 黒川さんの作品を読んでいると、取材の厚さと緻密さに感銘を受けます。私の場合は『虹を待つ少女』も三作目の『星空の16進数』も、取材はしましたが業界の雰囲気はわかっていたので、その辺は楽をしたかもしれません。
黒川 新人のころは取材しにくかった。名前を言っても誰も知りませんから。大賞を取ってこういう作品を書いてますと本を見せると、ようやく話してくれるようになりました。資料本はもちろん読みますしネットも見ますが、嘘が多いから信用できんとこがある。やっぱり人に聞くのが一番です。人にあたるとその業界の符牒がたくさん出てきます。この業界ではこういう符牒を使うのかと、取材対象者のキャラクターも含めて、それが勉強になります。
逸木 いままでは資料による取材が多くて、直接人にあたっていないので、本当に書けているのか不安でした。
黒川 デビュー作も『星空〜』もキャラクターがいい。どちらも丁寧です。特に『星空〜』で、藍葉がみどりに人捜しを依頼する冒頭の部分はすごく丁寧で細やかです。これだけ丁寧に書いていたら、キャラクターの個性が出てきます。小説に一番大事なのはキャラクターですから。ところでなんで女の子を主人公にしたの。
逸木 一作目とはテイストの違うものを書こうと思いまして。
黒川 よう女の視点で書こうと思ったね。俺、絶対無理やわ。視点が二人なのでやりやすいかもしれんけど、とにかく人物の出し入れがうまい。
逸木 黒川さんの作品は『喧嘩』はもちろん、バリエーションが本当に豊かです。確固とした作風が芯にあって、そこに色々な物語がはまっているなと感じます。初期作品から一貫したテイストがあるようなイメージです。ぶれないものがある。
黒川 そんなええもん、ないですよ。大阪弁ばかり書いてるからとちゃうかな。あの人はそういう風な人やという、物書きとしての印象ができてしもうたから。大阪弁で大阪ばかりが舞台。この物書きはこういう人だと思われたら勝ちです。読者がそういう風に見てくれて、当然ながら固定読者ができてくる。『疫病神』を書いたころから固定読者ができたなと思えるようになりました。そうなるまでがすごく大変ですけど。
逸木 黒川さんはキャラクターからお話を考えていかれるんですか。
黒川 そう、キャラクターです。逸木さんもたぶんキャラクターから作っていると思います。
逸木 私はプロットとキャラクター表を作って、両方同時にやってます。互いに干渉し合っているようなイメージです。書き始めるとあまりプロット通りにはいきませんが。
黒川 そりゃそうです。毎日書いてたらこっちの方が面白いかなと考えつきますわ。『喧嘩』も考えたんは発端だけ。あとは書きながら考えてます。
逸木 プロットなしで書くなんて怖いですね。
黒川 若いころは怖かった。でもある時期から、なんとかなるやろと。そういう芸が身についてくるんです。
逸木 『喧嘩』は二宮と桑原二人の会話部分とか、次に進む間のふくらみが素晴らしい味になっていると思います。私は展開を書いていないと不安なんです。何でもないシーンが気持ち的に書けなくて。
黒川 それは時間が解決します。経験です。ずっと書いていたらわかります。それがたぶん、芸やと思います。あとね、キャラクターの収入とか借金とか書いた方がいいわ。会社に何時までいて、こんな仕事をしてる。そうするとこれくらい給料を貰っているのかなとか。そういうことがうまく読者に伝えられると俄然リアリティが増してきます。『星空の16進数』のみどりも藍葉に対して、探偵料は二万円でいい、あとはボランティアだと伝えますが、あのあたりはうまいと思います。
逸木 デビュー作は最初から最後まで読者を飽きさせないことを目指して書きました。キャラクターが魅力的で好きな人がたくさん出てくるので、展開と人物の面白さを読んでいただけたらと思います。
黒川 アクションもうまいし、おもしろく読みました。四作目も手を離れて五作目が完成間近とか。仕事の質も量も新人離れしてますね。
抽選で10名様に黒川博行サイン入り
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応募方法
『喧嘩』(角川文庫)の帯についている応募券を郵便はがきに貼り、
①郵便番号 ②住所 ③氏名(ふりがな) ④電話番号 ⑤性別 ⑥年齢 ⑦作品の感想をご記入のうえ、以下のあて先までご応募ください。

あて先
〒102-8078 KADOKAWA文芸局「喧嘩 プレゼント」係
しめ切り
2019年6月30日(当日消印有効)
注意事項
- はがき1枚につき応募は1口まで。おひとりで複数口の応募が可能ですが、当選は1口のみとなります。
- 記入漏れや応募券が剥がれている場合、応募をお受けできません。
- 当選発表は賞品の発送(2019年7月頃予定)をもって代えさせていただきます(発送先は日本国内に限ります)。
- 賞品の譲渡(転売・オークション出品を含む)をしないことを応募・当選の条件とします。
- 作品の感想は弊社の出版物や各種PR物に掲載させていただく場合があります。
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KADOKAWAアプリで書き下ろし
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逸木裕 作品紹介

『虹を待つ彼女』
圧倒的な評価を集めた、第36回横溝正史ミステリ大賞大賞受賞作!!
2020年、AIの研究者・工藤は、死者をAI化する計画に参加する。甦らせるモデルは、6年前にテロ事件を起こして死亡した美貌のゲームプログラマー。謎に包まれた彼女に惹かれる工藤だったが――。
- 定価:本体720円+税
- 発売日:2019年05月24日


スペシャルインタビュー
バックナンバー

vol.13 米澤穂信『いまさら翼といわれても』刊行記念インタビュー

vol.12 黒川博行×逸木裕 特別対談

vol.11 黒川博行『喧嘩』刊行記念インタビュー

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