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vol.10 万城目学×門井慶喜 特別対談

万城目学

1976年大阪府生まれ。2006年『鴨川ホルモー』でボイルドエッグズ新人賞を受賞しデビュー。『鹿男あをによし』『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』『プリンセス・トヨトミ』『とっぴんぱらりの風太郎』『パーマネント神喜劇』等、著書多数。

門井慶喜

1971年群馬県生まれ。2003年「キッドナッパーズ」でオール讀物推理小説新人賞を受賞しデビュー。16年『マジカル・ヒストリー・ツアーミステリと美術で読む近代』で日本推理作家協会賞(評論その他の部門)、18年『銀河鉄道の父』で直木賞を受賞。

万城目学×門井慶喜 特別対談

構成:タカザワケンジ、撮影:ホンゴユウジ

万城目 門井さんと初めてお会いしたのは大阪の近代建築をめぐる対談でしたね。その後、何度も対談させていただいていますけど。

門井 僕らは歴史への興味という点で共通していますよね。でもアプローチがまったく違う。発想も違うし、書くものも違う。これまでいろんな方と対談していますが、そういう人はほかにいません。でも、小説について対談するのは今日が初めてなんですよね。

万城目 小説についてなんて、僕ようしゃべりませんから(笑)。

門井 僕も自信はないですが(笑)、先に感想を申し上げます。『バベル九朔』というタイトルがまず面白い。僕の解釈によればこれは壮大なタイトルなんですね。なぜかというと、「九朔」の朔は一という意味。数字としては九から一ですから、この世に存在するすべてのものがここにあるよ、というサインです。そして、それは転倒したかたちで読者へ示される。一から九ではなく、九から一ですから。

万城目 おお。一度手を離れたものは読み手の解釈がすべてですから。ありがたや〜。 門井さんは、僕と一緒にヴォーリズが設計した建築を見ながら、人知れず小説の構想を温めていたわけですよね。『屋根をかける人』を読んで驚きましたよ。同じものを見ていながら、僕はそういうことをやろうとまったく思わんかったから。ヴォーリズが住んでいた近江八幡で、クラブハリエのバームクーヘンを「美味しい」とか言って、それで終わっていた自分が恥ずかしい。僕も『偉大なる、しゅららぼん』で滋賀を舞台にしたので、歴史を調べる上で、ヴォーリズのことも知っていたのに。

門井 雑居ビルの管理人をしていたという経験から『バベル九朔』のような破天荒な話を書いてしまった万城目さんもすごいですよ。前半はテナントビルの管理人というお仕事小説なのか、というくらいディテールが書き込まれていますよね。でも中盤あたりから、バベルというのは主人公が管理する雑居ビルのことだけではなく、もう一つのバベルがあることがわかる。やっぱり「九朔」だった。転倒したかたちで世界のすべてがあった。そこから現実のバベルとは別のもう一つのバベル──僕は「夢のバベル」と呼んでいるのですが──の世界へと突入していきます。

万城目 ひたすら上へ上へ。『バベル九朔』は冒険小説なんです。

門井 主人公が上へ向かう間に、潰れたテナントがどんどん積み上がっていく。バベルと名付けたから上へ向かうんでしょうけど、こういう歴史観は見たことがない。というのは歴史は上へではなく、下、つまり地下に向かっていくのが普通だから。埋蔵文化財はあるけど、浮遊文化財や高層文化財はありませんからね。過去が地面の下にあるのは人類共通のイメージなんです。歴史観まで転倒している(笑)。

万城目 ありがとうございます。書いた自分でも気づかなかったことを教えていただいて。歴史という観点からいうと、『屋根をかける人』のヴォーリズは長生きだったから、日本の近代史の目撃者でもありますよね。日本が外国に開かれて間もない時代から、戦争があって、日本が負けてアメリカに占領される。もともとアメリカ人だったヴォーリズという異国の人の目線とともに近代の変遷を追っていくという経験が新鮮でした。

門井 『バベル九朔』の話をもっとさせてください。現実とは別のもう一つのバベルを、なぜ「夢のバベル」と呼んでいるかというと、夢には二つの意味があるからなんです。一つは将来の夢。具体的に言えば職業です。もう一つは寝ているときに見る夢。超現実の世界です。この二つの意味において、「夢のバベル」なんです。主人公は作家になる夢を持っていて、なおかつ超現実的な世界に入り込む。われわれが夢を二つにわけて考えていることを踏まえて、それを一緒にした世界があっち側のバベルなんだと思います。そういえば、僕の記憶がたしかならば、単行本にはバベルの外観が出てきたはずです。

万城目 出てきましたね。文庫版ではまるまる削った湖の場面に。

門井 今回、万城目さんは外観の描写を完全に削りましたよね。

万城目 ええ。文庫化にあたって、二〇〇枚削って四〇枚足したんです。

門井 「夢のバベル」を外から見る場面がない。これは理にかなっていると思います。夢は自分の内面の投影。内面に外観はありませんから。同じ小説家として、嫉妬と言ったらヘンですが(笑)、うまいことやったな、と思いました。

万城目 ありがとうございます。実は改稿する時点でかなり悩んだんです。でも、雑居ビルの中だけで完結する話にしようという原点に戻って、余計なものをカットしていった結果、こうなりました。

門井 そうだったんですか。もともと『バベル九朔』の世界には欠けているものが多い。パソコン、ケータイがない。原稿は手書きです。テレビ、ラジオもないし、通信機器は黒電話だけ。電子機器が一切ない。これは一体いつの時代なのか。でも、それを考えることはあまり意味がない。『バベル九朔』は外からの情報を徹底的に遮断したときに初めて成立する世界だからです。 そもそも主人公はいろんなものを奪われている。外界からの情報も奪われ、未来を奪われ、謎のカラス女が現れてからは平穏な日常も奪われる。奪われるというのは受け身ですから、奪われたものを取り戻すためには主体的に行動しなければならない。最後の最後に主人公がどんな行動をとるのかが読者の興味を引っ張っていく。構成の勝利です。

万城目 主人公が物語の後半で主体的になっていく、と読んでいただいたのは嬉しいです。僕のこれまでの作品はどれもクライマックスが対決になっていました。『鴨川ホルモー』にしても、『プリンセス・トヨトミ』にしても。でも、それしか書けないことが嫌だったんです。それで『バベル九朔』では対決シーンをつくらなかった。その代わりにやったことが、主人公の主体的な意志による決断をクライマックスにもってくる、という構成だったのですが、それは単行本のときにあまり言ってもらえなかった。門井さんに指摘していただいてとても嬉しいです。

門井 対決というわかりやすいかたちはとっていませんが、その行為には大きな意味がある。それまで読んできたことが報われたというカタルシスを味わいました。 ところで、万城目さんは歴史にもお詳しいですが、歴史小説で書いてみようと思われている題材はあるんですか。

万城目 書きたい題材はあるんですが、僕が書くとしたら歴史小説じゃなくて時代小説・伝奇小説になるでしょうね。僕にはたぶん歴史小説は書けないと思うんですよ。正史から逸脱しちゃうから。たとえば、僕がヴォーリズを主人公にしたら、裏で黒魔術をやってるとかって話になっちゃいますね(笑)。

門井 それ、ぜひ読んでみたいなあ(笑)。

抽選で10名様に万城目学サイン入り
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応募方法

『バベル九朔』(角川文庫)の帯についている応募券を郵便はがきに貼り、
①郵便番号 ②住所 ③氏名(ふりがな) ④電話番号 ⑤性別 ⑥年齢 ⑦作品の感想をご記入のうえ、以下のあて先までご応募ください。

応募券見本

あて先

〒102-8078 KADOKAWA文芸局「バベル九朔 プレゼント」係

しめ切り

2019年3月31日(当日消印有効)

注意事項

  • はがき1枚につき応募は1口まで。おひとりで複数口の応募が可能ですが、当選は1口のみとなります。
  • 記入漏れや応募券が剥がれている場合、応募をお受けできません。
  • 当選発表は賞品の発送(2019年5月頃予定)をもって代えさせていただきます(発送先は日本国内に限ります)。
  • 賞品の譲渡(転売・オークション出品を含む)をしないことを応募・当選の条件とします。
  • 作品の感想は弊社の出版物や各種PR物に掲載させていただく場合があります。
  • 応募に際しご提供いただいた個人情報は、弊社のプライバシーポリシーの定めるところにより取り扱わせていただきます。

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角川文庫70周年&
『バベル九朔』文庫版発売記念
万城目学サイン会 開催!

開催日時

2019年3月30日(土) 14:00~(整列開始13:45)

会場

三省堂書店札幌店 店内特設会場

参加条件・応募方法

詳細はこちら

門井慶喜 作品紹介

『屋根をかける人』

『屋根をかける人』

「日本人として生きる」ことを選んだアメリカ人建築家の壮絶な一代記

明治末期にキリスト教布教のために来日したアメリカ人建築家、メレル・ヴォーリズ。彼は日本人として生きることを選び、 終戦後、昭和天皇を守るために戦った――。彼を突き動かした「日本」への思いとは。

  • 定価:本体720円+税
  • 発売日:2019年03月23日
書籍詳細
『マジカル・ヒストリー・ツアー ミステリと美術で読む近代』

『マジカル・ヒストリー・ツアー ミステリと美術で読む近代』

気鋭のミステリー作家が案内する名作の秘密。推理作家協会賞受賞作!

気鋭の歴史作家が『時の娘』『薔薇の名前』『わたしの名は赤』などの名作をとおして、小説・宗教・美術が交差する「近代の謎」を読み解く!

  • 定価:本体880円+税
  • 発売日:2017年12月21日
書籍詳細
『シュンスケ!』

『シュンスケ!』

幕末の志士は皆、この男に魅了された――。
新鋭作家が描く伊藤博文の一代記

伊藤俊輔、のちの伊藤博文は農民の子に生まれながらも、その持ち前のひたむきさ、明るさで周囲を魅了し、驚異的な出世を遂げる。新生日本の立役者の青年期を、さわやかに痛快に描く歴史小説。

  • 定価:本体720円+税
  • 発売日:2016年07月23日
書籍詳細
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