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角川文庫
創刊70周年
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堂場瞬一
1963年茨城県生まれ。2000年に『8年』で第13回小説すばる新人賞を受賞し、作家デビュー。主な著書に「アナザーフェイス」シリーズ、「警視庁追跡捜査係」シリーズほか、『黒い紙』『砂の家』などがある。
落合 博
1958年生まれ。読売新聞大阪本社などを経て毎日新聞社に入社。プロ野球や高校野球の取材をはじめ、多ジャンルの記事を執筆する。論説委員を経て、2017年に毎日新聞社を退社。同年、浅草にほど近い場所に本屋「Readin' Writin'」を開業する。著書に『こんなことを書いてきた スポーツメディアの現場から』(創文企画)がある。
堂場瞬一×落合 博 特別対談
構成=高倉優子、撮影=ホンゴユウジ
――おふたりは初対面ですが、元新聞記者という共通点がありますね。堂場さんは読売新聞社、落合さんは読売新聞社と毎日新聞社でそれぞれ勤務なさっていました。
堂場 まずは新聞記者だった頃の話をしましょうか。
落合 僕は大阪本社採用だったんですが、入社後すぐに広島の福山支局へ配属されました。そして二年後に滋賀の大津支局に異動し、さらにその二年後、大阪本社の運動部へ。南海ホークスの担当や、甲子園の取材など充実した日々を送りました。堂場さんはまずどちらの支局に?
堂場 新潟です。四月に赴任した時にまだ雪が残っていて、雪の降らない北関東育ちの僕には辛かった(笑)。全く知らない場所だからしがらみがない分、一切のコネもない。地元紙の記者たちにたくさん(記事を)抜かれました。あれは悔しかったです。あまりに抜かれるものだから上司の指示で地元紙記者の跡を付けたこともありましたよ。結局、パチンコ屋に入っただけでしたけどね(笑)。
落合 『十字の記憶』にも書いてらっしゃいましたけど、全国紙の記者と違い、地方紙記者にはいろんな人脈がありますからね。
堂場 県の偉い人が同級生とかね。
落合 そうそう。それに彼らには全国紙には負けるわけにいかないというプライドもある。表面上は仲良くしてくれていても、常に「おまえらに懐は見せないぞ」という姿勢だったように思います。

堂場 新人時代、何か印象的な出来事はありましたか?
落合 入社二年目に小学生の誘拐殺害事件があったんです。容疑者が逮捕され、一件落着となるはずが、報道協定違反ということでしばらく記者クラブを除名になった。僕自身がやったことではなかったんですが、あの時はやりきれなかったですね。僕は読売新聞大阪社会部が作った『誘拐報道』という本などを読んで、新聞記者になろうと思ったんです。本の中でも報道協定の是非が描かれていたから、まさか自分が経験することになるなんて……。長い記者人生の中で、記者クラブを除名されたのは後にも先にも一度だけでした。
堂場 表現が難しいけれど、少しうらやましいです。僕は記者時代、大きな事件を経験しなかったので。悲しい記者時代ですよ(笑)。
落合 でもお書きになられている事件ネタとか、すごくリアルじゃないですか?
堂場 これはあくまでも想像したものですから。
落合 『十字の記憶』は、支局時代のことを思い出しながら読ませていただきました。気になるフレーズもいくつかありましたよ。たとえば「いつでも誰にでも会え、好き勝手に考えられるのが新聞記者の最大の特権だ」。本当に名刺一枚で誰にでも会えますよね。赴任した先で、名刺を出すと皆さん下にも置かぬ態度で接してくれる。まあ、それを勘違いしてしまう記者もいるわけですが……。
堂場 確かに、名刺の威力は絶大ですね。どうしても取材を受けたくない人は別でしょうが、たいていの人は好意的な対応をしてくれる。小説のために取材をする際、全然手ごたえが違っていて驚きました。
落合 名刺=看板の力なのでしょうね。僕の場合もサツカンじゃない限り、だいたいウエルカムでした。
堂場 サツカンって警察のことですが、新聞業界独特の言い回しかもしれませんね。
落合 そうそう、サツカンといえば本書の中で「刑事は強制的だけど新聞記者は丁寧に頭を下げて人から話を聞き出す」といった表現がありましたが、僕も同感です。刑事と違い、新聞記者って接客業の面があると思うんですよ。取材を受ける側からすると態度の悪い人には話したくないじゃないですか。相手に気持ちよく話してもらうためのスキルが必要というか。
堂場 確かに。ただし下手に出たり、卑屈になったり、媚を売るのとは違いますよね。かっこよく言うと、「相手が誇りを持って話せるように導くスキル」とでも言いますか。

落合 僕の店にはいろんなお客さんが来ますが、人によっては明らかに「話しかけるな」というオーラを放つ人もいる。だから話しかけていいかどうかを見極めるようにしています。大丈夫そうな人なら「どこから来ました?」「どうやってこの店を知ったんですか?」などと聞く。そういう時、新聞記者時代の人との距離や間合いの取り方が役に立っているなと思いますね。いくらでも人と話を合わせられる。
堂場 僕も一つの要素があれば十くらいは話せます。こと取材に関しては話を切らないことが大切ですからね。
落合 『読んでいない本について堂々と語る方法』という本もありますね。
堂場 僕は元々人の話を聞くのが苦にならない性質だし、きっと落合さんもそうなのでしょうね。そういう人じゃないと新聞記者になろうと思わないでしょうから。
落合 時々、お店でライティング講座を開催しているんです。その時、生徒さんにこうアドバイスしています。「あなたの考えなんて誰も知りたくない。取材して他者の視点を盛り込んでほしい」と。自分は空っぽでいいんです。新聞記者もそうだけど、「このテーマならこの人に聞けばいい」という知識がある人をどれだけ知っているかが大切ですよね。ぜひ取材を通じてファクトを集め、それを文章にしてほしいと言っています。
堂場 確かに僕も自分自身のことを書きたいとは思わないし、他人が書いた自分史など読みたいとも思わない(笑)。
――以前、堂場さんは「他人の人生を描くのがエンターテインメントだ」とおっしゃっていましたよね。
落合 フィクションにしてもノンフィクションにしても、自分の意見を書き連ねたものなんて面白くないですもんね。
堂場 ああ、わかった。わかりました! 僕はこれまで新聞記者と作家って全然違う仕事だと思っていたけれど、落合さんの話を聞いて同じだったことがわかった。僕は単なる器に過ぎない。で、新聞記事ではファクトを綴っていたけれど、そこにいろんな要素を加えてフィクションとしてガラガラポンと出したものが小説なんです。そういう意味では、新聞記者も作家もまったく同じです。
落合 なるほど、そう考えると同じなのかもしれないですね。
堂場 ところで落合さんはずっと本屋さんがやりたかったんですか?
落合 いえいえ。六十歳で定年になったら職場を変わらなければいけないし、給与も下がる。新聞社でやりたいことはすべてやったので定年前に新しい道を探そうと思ったんです。四歳の子どもがいるし、定年を気にせず働ける仕事がいいなと考えている中で、縁が重なってこの店を開業することになりました。「出版不況の時代によくやりますね」とか言われるんですけどね。ただし本を買うのが好きという人は一定数いるから、その人たちに対してたくさん努力してアプローチしていけばいいと考えているんです。うちの店には帯に「販売部数十万部」と付いているような本は並べなくていい。ブームに左右されない、何年経っても手にしてもらえるような本をセレクトしたいし、部数は少ないけれど価値のある良書がちゃんと流通するような仕組みを作っていけたらいいと思います。
堂場 いつか本屋をやってみたいなんて思っていたけれど、いろんな意味で僕には無理かも(笑)。
落合 堂場さんはこれからも、よい本をたくさん書いてください!
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応募方法
『十字の記憶』(角川文庫)の帯についている応募券を郵便はがきに貼り、
①郵便番号 ②住所 ③氏名(ふりがな) ④電話番号 ⑤性別 ⑥年齢 ⑦作品の感想をご記入のうえ、以下のあて先までご応募ください。

あて先
〒102-8078 KADOKAWA文芸局「十字の記憶 プレゼント」係
しめ切り
2018年11月30日(当日消印有効)
注意事項
- はがき1枚につき応募は1口まで。おひとりで複数口の応募が可能ですが、当選は1口のみとなります。
- 記入漏れや応募券が剥がれている場合、応募をお受けできません。
- 当選発表は賞品の発送(2019年1月頃予定)をもって代えさせていただきます(発送先は日本国内に限ります)。
- 賞品の譲渡(転売・オークション出品を含む)をしないことを応募・当選の条件とします。
- 応募に際しご提供いただいた個人情報は、弊社のプライバシーポリシーの定めるところにより取り扱わせていただきます。
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作品紹介

『十字の記憶』
警察小説の旗手が初めて挑んだ、
青春×警察ミステリ!
新聞社の支局長として20年ぶりに地元に戻ってきた記者の福良孝嗣は、着任早々、殺人事件を取材することになる。だが、その事件は福良の同級生二人との辛い過去をあぶり出すことになる──。
- 定価:本体760円+税
- 発売日:2018年10月24日
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