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角川文庫
創刊70周年
スペシャルインタビュー
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辻村深月
1980年山梨県生まれ。2004年『冷たい校舎の時は止まる』でデビュー。12年に『鍵のない夢を見る』で直木賞受賞。18年『かがみの孤城』で本屋大賞受賞。ほか著書多数。
深木章子
1947年東京生まれ。元弁護士。2010年『鬼畜の家』で島田荘司選第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞。『敗者の告白』『消人屋敷の殺人』など。
辻村深月×深木章子 特別対談
構成=朝宮運河、撮影=ホンゴユウジ
辻村 深木さんとはメールでよく新刊の感想を送り合ったりしていますが、こうして対談の形でお話しするのは初めてですね。よろしくお願いします。
深木 辻村さんとはわたしより先に、うちの母親がお会いしているんですよね。
辻村 そうなんです。『東京會舘とわたし』という小説の取材で、東京會舘にゆかりのある方々にお話をうかがっていて、その中のお一人が偶然深木さんのお母様でした。取材の席に深木さんのデビュー作『鬼畜の家』を持ってこられて、ミステリがお好きなのかなと思ったら「これ、娘の本なんです」とおっしゃって驚きました。
深木 お恥ずかしい(笑)。わざわざ本を持参していたんですか。
辻村 それをきっかけに『鬼畜の家』を拝読して、あまりの面白さにびっくりしました。かつて本格ミステリの傑作群に触れた時と同じような感動を覚えたんです。現代でこんな作品を書かれる新人さんがいたんだ、というのが嬉しくて、以来ずっと拝読しています。
深木 ありがとうございます。本格ものばかり読んできた人間なので、書くものも自然とそうなってしまうんですよ。

辻村 深木さんは元弁護士さんという経歴の持ち主ですが、もともと作家を目指されていたのですか?
深木 とんでもない。長年いち読者に過ぎませんでした。60歳で仕事を辞めて、自由な時間ができたものですから、趣味でちょっと書いてみようかなと。まさか島田荘司先生が選考委員を務める賞に選ばれて、デビューにつながるとは夢にも思っていませんでした。還暦を過ぎてもう一回、新しい人生がスタートしたような気分です。
辻村 なるべくしてミステリ作家になられたんですね。深木さんが以前あるエッセイに、殺伐とした現代こそ本格ミステリが息抜きになるんだ、という趣旨のことを書かれていて、とても感銘を受けました。まったくその通りだなと。自分がどうしてミステリに惹かれるのか、その理由をうまく言葉にしてもらった気がしました。
深木 日々のニュースを見ていると、現実そのものが社会派ミステリじゃないですか。だったら小説の中くらい、現実をなぞらなくていいんじゃないか、という思いがあるんです。わたしは本格ミステリとは遊び心だと思っています。どんな連続殺人事件が起ころうが、現実とは切り離して楽しむことができるものです。
辻村 よく分かります。小説家のやるべきことは「リアル」そのものを描くことじゃない。みんなが共通して感じている、時代の「リアリティ」を言葉ですくい上げることなんですよね。
深木 小説だから描ける犯罪。小説だから描ける恋愛って、絶対にあると思います。だからこそ人間は架空の物語を求めるんでしょう。
辻村 今度文庫化される『ミネルヴァの報復』は、深木さんの弁護士人生が反映されたものだそうですね。
深木 ええ。いつもはミステリとしての仕掛けを考えて、登場人物やプロットを後から考えるんですが、『ミネルヴァ』に関しては「女性弁護士奮闘記」のようなものを書きたいという思いが当初からありました。横手皐月というヒロインを通して、女性が独立開業して、ひとりで頑張っていく中での喜怒哀楽を描いてみたかったんです。
辻村 皐月をとりまく人間関係、特に女性同士の距離感がこまやかに書かれていて、大人のミステリだなあと思いました。仕掛けの部分も素晴らしいですね。深木さんのミステリを読んでいつもすごいと思うのは、「聖域」がないこと。ヒロインだろうが幼い子どもだろうが、容疑者になりうるし、命の危険にも晒される。そこが絶妙な緊張感を生んでいます。といって後味は決して悪くない。それは深木さんの人を見る目が、温かくて正しいからなんだと思います。
深木 仕掛け先行で作っているので、正直そのあたりは意図的じゃないんです。逆に「イヤミスですね」と評価されても、狙っていないので分からない。興味があるのはむしろただ読者との知恵比べ、どれだけうまく騙せるかということなんです。
辻村 小説って意図しないところで、書き手の価値観が表れるものですよ。そんな『ミネルヴァ』が日本推理作家協会賞にノミネートされた時は、なんだかもう一ファンとしてすごく嬉しかったです。

深木 辻村さんはミステリ以外の小説でも、ミステリ的な手法をよく使われますよね。『ツナグ』にしても『青空と逃げる』にしても、伏線と意外性がちゃんと用意されていて、ミステリとしても楽しめるようになっている。
辻村 パソコンにたとえると、わたしは搭載されているOSがミステリなんだと思っています。だから物語を出力しようとすると、自然とミステリ的な構成になる。でも深木さんが書かれているような王道の本格ミステリは、大好きだからこそ、すごくハードルが高い。ミステリに関しては私は「分家の子ども」くらいのポジションかな、といつも思っています。
深木 何をおっしゃるんですか(笑)。本屋大賞に輝いた『かがみの孤城』なんて、本格ミステリ以外の何ものでもないと感じましたよ。
辻村 嬉しいなあ。本家の深木さんにそんなふうに言っていただけるなんて!
深木 文庫化された辻村さんの『きのうの影踏み』では「十円参り」という作品が、ミステリ的な手法でしたね。途中で視点が切り替わったところで、あっと驚きました。
辻村 『きのうの影踏み』は怪談集なので、あえてはっきりした結末をつけないように心がけました。とはいえまったくオチのない話も難しい。読者に満足して帰っていただくために、できるだけ「驚き」というお土産を用意したいと考えました。
深木 辻村さんやご家族を思わせるキャラクターもよく出てきますね。
辻村 はい、出てきます(笑)。先輩の怪談作家さんたちが、よくご自分をモデルにした登場人物を書かれているので、私も一度こんな書き方をしてみたかったんです。現実ではなかなか怪異に遭えないので、せめて小説の中だけでも、と。
深木 辻村さんはつくづく人間観察が鋭いですよね。『ツナグ2』ではわたしの家族を書いていただきましたが、わたしと母親の距離感なんて現実そのものです。『きのうの影踏み』でも、少ない枚数でさまざまな人生を書き分けていて感心しました。辻村さんはエンタメの枠に留まらない、もっと大きな「文学」の書き手だとわたしは思っています。
辻村 たしかに辻村深月はミステリ作家、と思っている読者はそれほど多くないのかもしれません。それでもわたしはミステリが大好きだし、ミステリ系の新人賞からデビューできたことは大きな幸せだったと思います。ミステリの世界がわたしを今日まで見守り、育ててくれました。深木さんのような同業者が本家にいることは、とっても心強いです。これからも面白いミステリをどんどん書いてくださいね。楽しみにしています!
深木 ありがとうございます。毎回アイデアをひねり出すのに一苦労ですが、ご期待に添えるようにがんばります。
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※募集は終了しました
応募方法
『きのうの影踏み』(角川文庫)の帯についている応募券を郵便はがきに貼り、
①郵便番号 ②住所 ③氏名(ふりがな) ④電話番号 ⑤性別 ⑥年齢 ⑦作品の感想をご記入のうえ、以下のあて先までご応募ください。

あて先
〒102-8078 KADOKAWA文芸局「きのうの影踏み プレゼント」係
しめ切り
2018年9月30日(当日消印有効)
注意事項
- はがき1枚につき応募は1口まで。おひとりで複数口の応募が可能ですが、当選は1口のみとなります。
- 記入漏れや応募券が剥がれている場合、応募をお受けできません。
- 当選発表は賞品の発送(2018年10月下旬予定)をもって代えさせていただきます(発送先は日本国内に限ります)。
- 賞品の譲渡(転売・オークション出品を含む)をしないことを応募・当選の条件とします。
- 応募に際しご提供いただいた個人情報は、弊社のプライバシーポリシーの定めるところにより取り扱わせていただきます。
KADOKAWAアプリで書き下ろし短篇『影踏みの記憶』配信中!
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深木章子 作品紹介

『ミネルヴァの報復』
女性弁護士が二転三転する事件に奔走。どんでん返しの傑作本格ミステリ。
猪突猛進の戦女神ミネルヴァを思わせる弁護士・横手皐月。サポートするのは、冷静沈着な法の神・テミスとしての睦木怜。細部まで丁寧に張り巡らされた伏線。第69回日本推理作家協会賞候補作!
- 定価:本体720円+税
- 発売日:2018年09月22日

『敗者の告白』
食い違う証言が導く真相とは!? "告白"だけで構成された大逆転ミステリ
とある別荘で、妻子の転落死事件が発生。容疑者となった夫の供述、妻が遺した告発文、子供が書いた救援メール、弁護人がかき集めた関係者の証言は食い違う。事件の裏に隠された巧妙な犯罪計画とは――。
- 定価:本体760円+税
- 発売日:2017年08月25日
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